治療の解説

治療の解説

吃音に有効性が確立された薬物はないが,1/3程度の症例に有効だと報告されているものはある。ただし、吃音が適応として保険収載されている薬はない。吃音が原因となった2次性の抑うつや社交不安障害には薬物療法が行われることもある。

治療の中心は,環境調整,言語訓練,カウンセリング,心理療法・行動療法である。どの患者にも一様に有効である治療法はないので,患者に応じて(しばしば組み合わせて)選択することで、ある程度の有効率が得られることが多い。

環境調整とは,周囲の者の対応を変えることで,吃音がある児者が話しやすくする,あるいはあまり吃らないで話せるような環境を作ることであり、幼児期は後者の意味合いが大きい。学童期以降は,家庭,学校や会社等で,発話困難な状況・場面等についての理解と寛容を求め,吃音に関わらず社会参加ができ,能力が発揮できるようにすることが目的である。

1) 幼児期

意識的には発話を修正できないため,環境調整をまず行う。方法としては,周囲の者がゆったりと楽に話し,吃るかどうかではなく,内容を聞くように努める。吃ると笑ったり真似をする子がいる場合は保育園・幼稚園の教諭にも協力を求め,「わざとそうしているのではない」という説明をしてもらう。本人の発話意欲を下げないように保護者のサポートをしながら経過を観察し,悪化が見られるか,発吃後1年半から2年以上経過,ないし就学1年前までに治癒しない場合,あるいは吃音の家族歴等の危険因子がある場合は訓練を行う。有効性が確立した方法として,言語要求水準と言葉を出す能力のずれがあるから吃るという理論(Demands and Capacities Model)に基づき,発話能力に合わせて言語要求水準を下げる方法や,オペラント応答を用いたリッカムプログラム,ゆっくりした柔らかい起声の発話を真似させたり,縫いぐるみ等を利用してゆっくりした発話リズムを教える方法などがある。幼児の多くは治療への反応が良く,幼児期に治癒すれば記憶にも残らない。

 2) 学童期

吃音児の過半数が笑われたりからかわれたりしており,これによって自尊感情の低下や不登校などの二次障害が生じやすくなるので,本人の意向を聴取しつつ,クラスや学校の環境調整に当たる。

幼児期に比べると発話をある程度コントロールできるようになるが,吃る不安があると発話行為が意識的になり,自動化して行うことが難しく,そのために非流暢になり,さらに発話行為が意識的になる,という悪循環が起きる。発話行為自体に注意が取られると,発話内容を考えたり保持する余裕がなくなるため,単語や短文で短く応答すること以外を避けるようになってしまうことがある。

斉読やリズムに合わせた朗読は流暢性を誘導しやすいので,これによって発話に自信を持たせる訓練がよく行われる。

高学年になると,柔らかくゆっくり言うなどの流暢性形成法が可能な場合もあるが,認知的に余裕がない児では日常的に使えるようにはなりにくい。吃音への過敏さや情緒反応を減らすため,ロールプレーを行ったり,吃音緩和法(楽に・軽く吃る)や随意吃(わざと吃る)の訓練も使われる。心理的サポートとして,認知行動療法も併用される。

重症では,遅延聴覚フィードバック装置(delayed auditory feedback: DAF)を授業中に使うことも選択肢となる。DAFは装用している間のみ効果があるとされているが,数か月以上使うことで吃音の頻度も下がるという研究がある。

 3) 青年期・成人

言語訓練としては吃音緩和法と流暢性形成法との組み合わせ(統合法)がよく使われるが,これらのみで改善する症例は少なく,過半数では社交不安障害などの心理面の評価と対応も必要になる。社交不安障害には薬物療法も行われるが,認知行動療法が奏功する。

うつなどの精神的な合併症がない症例には,イメージトレーニングを中心として実際の発話訓練をしないメンタルリハーサル法も使われるが、2年程度かかることと,実施できる臨床家が少ないという問題がある。

適切な速度の発話についてスピーチ・シャドーイングを3ヶ月程度継続して行うと,阻止(ブロック)が解消する症例もある。重症ではDAFも選択肢となるが,有効なのは半数程度である。

認知行動療法を用いた治療では,発話行為に注目することが非流暢の主な原因であることを理解させ,吃るかどうかにこだわらず,楽なコミュニケーションを目標とする。こうした方が,発話行為自体から注意が外れるので,却って発話症状も改善しやすい。環境調整は本人が周囲に自分が吃ることを開示して周囲に協力を求めることになる。随意吃などで吃ることを宣伝すると心理的負担が減り,楽にコミュニケーションができるようになる。

障害者差別解消法等により,雇用主は吃音者から求められれば合理的配慮をする義務がある(面接時間を長くする,電話業務を免除する等)。ただし,このためには吃音の診断書が必要とされることが多い。訓練によっても家族以外とは音声で意思伝達できない程に重症であれば,身体障害者手帳の対象になる。発達性吃音は発達障害者支援法によって,また,合併する精神疾患によって,精神障害者保健福祉手帳が交付できる可能性があり,福祉的就労も選択肢になる。