第19回 子どもの聞こえと環境
メールマガジン第19号

子どもの聞こえと環境

配信年月:2018年4月

以前、11号のメルマガ(第11回)で、子どもの<音を聞きとる能力>の発達(徐々に日本語を聞きとるのに適切な能力を強めていくこと)について取り上げました。今回は、先月開かれました日本発達心理学会第29回大会で取り上げられていました、「乳幼児の聞こえと保育環境」について、皆様に情報をお伝えしたいと思います。

 

1.保育園の音環境

ここ数年、特に都市部では、保育園に入れない待機児童が多いことが問題とされており、この状況を改善しようと保育園の設置が進められています。しかしその一方で、保育園の新設に対し、近隣の方々が子どもの声などの騒音に対して不安を感じ、設置を反対するという現実もあります。このような社会の反応を受け、現在では保育室の窓を開放せずに子どもを保育することが、ごく当たり前に行われているようです。このような環境は、音の側面から子供にどのような影響があるのでしょうか。

今回の学会で話されたことは、窓を閉めきった空間では、そこで生じた音(子ども・先生の声、玩具の音など)が室内に充満し、特に音が吸収されるような対策がなされていない(吸音材などが設置されていない)場合は、それらの音がいつまでも残ることで(残響が長い)、その場の喧騒感(うるさく騒がしい感じ)が強くなるそうです。その結果、先生の声が通りにくかったり、子どもの落ち着きがなかったりと、保育の質にも影響を与えうるとの話でした。

2.子どもの聞き取り能力

日本語が話されている環境で育てられた赤ちゃんは、生後8ヶ月頃から日本語を聞き分けるために必要な聞こえの能力を発達させていくと、以前のメルマガでお伝えしましたが、「聞こえの能力」には他にも様々なものがあります。その1つは、雑音の中で、自分に必要な音を選んで聞きとる能力(選択性聴取能力)です。

乳幼児は大人と違い、特にこの選択的聴取が苦手と言われています。雑音の中から、必要な音を聞きとるという実験では、7〜10歳の子供でも大人と同じようにはできないことが報告されており、日々、騒がしい保育園・幼稚園、また学校の中で、先生の声を選び出して聞きとることは、子どもにとって負担が大きい作業なのかもしれません。

今回の報告では、残響の長い園で生活している子どもは、残響が短い園で生活している子どもより、人の声を聞き取る能力が低かったことも示されました。子どもの聴覚の発達は15歳頃まで続くことを考えると、子どもの音環境を整えてあげることは、非常に重要なことだと思われます。

3.日常生活でできること

保育園・幼稚園や学校の音環境を整えることは、すぐに我々ができることではありませんが、日常の家庭生活でも少し音環境を見直すことはできるかもしれません。

例えば、メルマガ12号(第12回)でも取り上げたメディアとの接触の側面からは、テレビが付いている状況では子どもの遊びの集中力が低下することも報告されていますので、玩具で遊んでいるときはテレビを消す方が望ましいかもしれません。また、絵本の読み聞かせなども、静かな環境で行うことで、お子さんだけでなくお父さん・お母さんも落ち着いた気持ちになり、心地よい状態でことばの学習や感情体験が進むかもしれません。

我々は、メディアとの接触について子供への悪影響を考えるとき、目にとってよくない・刺激が強すぎるなど、「見る」ことに注意が向きがちですが、「聞く」こと、音の環境についても、その刺激の強さを考えてみる必要があると思われます。

 

4.吃音の豆知識(支援を求める時期)

「吃音に関する支援は、いつから受けるとよいのでしょうか。」このような質問が研究協力をしてくださっているお母様から寄せられましたので、Webページに掲載した回答を元に、ここにも記します。

支援の時期については、話し方を習得中である幼児の段階、つまり早い段階で、専門家がサポートを行う方が望ましいと、言語聴覚療法(ことばのリハビリ)の分野では言われています。しかし、幼児期には吃音が自然と消えていくことも多いので、長期間(1年以上)続いたり、悪くなったりしなければ、少し様子を見ていても大丈夫です。

学齢期や、それ以降(大人になって)も吃音が続き、本人が生活に不具合を感じるようであれば、話しづらさを改善したり、生活しやすい環境を作るなどの支援は可能です。特に、学校生活や職場で不都合がある、あるいは精神的に吃音が悪い影響を与えているようであれば、早目に支援を受けることをお勧めします。

(2022年8月2日追記)幼児期の吃音の支援については、本サイトにある幼児吃音臨床ガイドライン 第1版 添付資料4 『お子さんがどもっていると感じたら』 家族にできるお子さんへのサボートについて( 2022-09-30公開)も参考になさってください。

 

5.参考図書など

  1. 志村洋子・嶋田容子・加藤正晴・長谷川武弘・石川眞佐恵他. 乳幼児の聞こえと保育環境.聴覚特性から保育の質を検証する. 日本発達心理学会第29回大会.自主シンポジウムSS3-3. 2018-03-22-24.
  2. 白石君男.子どもの聴覚発達と音環境. 日本音響学会誌. 72巻3号. Pp. 137-143. 2016.
  3. E. Schmidt, T. A. Pempek, H. L. Kirkorian, A. F. Lund & D. R. Anderson. The effects of background television on the toy play behavior of very young children. Child Development, 79(4), Pp. 1137-1151. 2008.

 

AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
 研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一

 

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