第13回 子どもの自制心

第13回のテーマは<子どもの自制心>です

配信年月:2017年10月

1. マシュマロテスト

皆様、「マシュマロテスト」というのをご存知ですか?これは、1970年にアメリカで、ミシェルとエッベ・B・エッベセンという心理学者によって初めて行われた、子どもの自制心を調査するテストです。方法は以下の通りです。まず4歳の子どもを、机と椅子だけがある部屋に連れて行き、椅子に座るように言います。机の上には(けっこう大きな)マシュマロを1個置いておきます。実験者は「私は用事があるから、部屋を出て行くね。ここにあるマシュマロはあなたにあげるけど、もし私が戻ってくるまでの15分間マシュマロを食べるのを我慢(がまん)してたら、マシュマロをもう1つあげるね。私が戻ってくるまでにこのマシュマロを食べてしまったら、もう1つは無いよ」と言って部屋を出ます。そして子どもの反応を見るのです。結果は、3分の1の子どもが15分間我慢して、2つめのマシュマロを手に入れたというものでした。

2. 自制心と社会的成功

その後、このマシュマロテストに参加した子ども達の追跡調査が行われます。テストから14,15年後のこども達が18,19歳になった頃、当時1つ目のマシュマロを食べた子どもと食べなかった子どもとをグループにして比べたとき、マシュマロを食べなかったグループは社会的に成功している人が多い(周囲から優秀と評価されている、大学に進学したなど)という結果が示されました。このことから、実験者達は「将来のより大きな成果のために、目先の欲求を辛抱(しんぽう)する能力(自制心)が高いと、社会において成功しやすい」と結論づけました。ちなみに、5〜6歳になると、もっと多くの子供が15分間我慢してマシュマロを2つ食べられるようになります。

3. 自制心の育て方

将来成功するかどうかはさておき、現在の生活の中で、お子さんが「テレビを見るのは30分」「9時には寝る」などのルールを守れないといったような、自分の欲求をコントロールできないことが気になるお母さん・お父さんはいらっしゃるかなと思います。子どもとルールを決めるときは、一方的に押し付けるのではなく、なぜそれが必要かを伝えるのがいいようです。

3〜4歳は「なんで?」「どうして?」の時期ですから、しっかり理由を説明してあげて、一緒に考えることが大切です。約束を守れなかったら何が起こるか(例えば、寝るのが遅く、朝起きられなかったために出かけるのが遅くなった)などの経験も、「次からは寝よう」との思いに繋がるでしょう。また、「挨拶をする」などの約束は、大人が実行している姿を見せることも大切です。ある研究では、親が頑張っている姿を見ている子どもは、見ていない子どもと比べて、目標に向かって頑張ることも示されています。つまり子供は、親の言うことより、していることを見て学ぶようです。

マシュマロテストの追跡調査は、将来の大きな利益を得るためには今ちょっと我慢できる子供に育てることの大切さを教えてくれますが、その方法としては、親が「我慢しなさい」と言うよりも、普段から親が頑張っている姿を見せることが効果的なようです。皆様は、目の前の羊羹(ようかん)1切れと、15分後の羊羹2切れと、もらえるとしたらどっちがいいですか?

 

4. 吃音のまめ知識

以前のメルマガで、吃音は最終的に7〜8割が症状がなくなると書きましたが、治癒する吃音の経過には特徴があります。子どもの吃音は始まってからも出たり消えたりを繰り返しますが、その経過で、症状が出ている時期の様子が徐々に楽な感じになったり、吃音の出る頻度が減少してくる子どもの場合、結果的に自然治癒しやすいようです。つまり、しばらくの間、吃音の経過を観察することが、自然に消えていくかどうかの見通しには必要です。もし吃音の症状が現れても、慌てず少しの間、お子さんの様子を観察してみてください。

 

5. 参考図書

  • マシュマロテストのコロンビアでの追加試験(日本語の字幕・書き起こしを選択できます). TED Talk
    https://www.ted.com/talks/joachim_de_posada_says_don_t_eat_the_marshmallow_yet
  • 今井和子: 0歳から5歳児行動の意味とその対応. 小学館, 2016
  • Julia A. Leonard, Yuna Lee, Laura E. Schulz. Infants make more attempts to achieve a goal when they see adults persist. Science 22 Sep 2017:Vol. 357, Issue 6357, pp. 1290-1294
  • 廣島忍・堀彰人: 子どもがどもっていると感じたら. 大月書店, 2004.