第10回 発音

第10回のテーマは<発音>です

配信年月:2017年7月

お子さんの健康診断でお会いしているお母様から、「心配なこと」として相談を受けることで多いのが、「発音」です。ただ、よくよくお聞きすると、「サ行」「ラ行」がうまくいえないということが、結構あります。

1. 発音の発達

そもそも、何歳になったらどんな音を出しわけることができるのでしょうか?

生まれてすぐの赤ちゃんは、泣いたりぐずったり、心地よい時は柔らかい声をだしながら、発声の練習をしています。このころは、日本語でいえば「あーあー」「うーうー」のような母音に近い音がほとんどです。

赤ちゃんが色々な音を出しわけて、「ば・ば・ば・ば」とか「まんまんまん・・」などの喃語(なんご)でおしゃべりするようになるのは、6か月を過ぎた頃からです。この頃から、舌や唇や頬などを使って様々な音を出し、音遊びを楽しみながら、お話の練習を始めるのです。

1歳後半くらいからは、母音、「マ行」「ナ行」「ヤ行」「パ行」など色々な音を出し分け始め、3歳半〜4歳半頃までに「カ行、ガ行」「タ行、ダ行」も含めた日本語の音が安定して発音できるようになります。

一番相談の多い「サ行、ザ行」「ラ行」は、舌の使い方がちょっと難しいので、5歳過ぎ、一番遅くになって獲得される音です。それまでは、「さかな」が「しゃかな」だったり、「れいぞうこ」が「でいどうこ」のように発音していることもよくあります。勿論、個人差はありますが、お子さんによっては就学を迎えるぎりぎりまで、正しく発音できない場合もあります。なので、3歳代でこれらの音がうまく言えないからといって慌てる必要はありません。

2. お子さんの周りにいる人の働きかけ

では、お母様はどのようにお子さんに話しかけていたらよいのでしょう。

お子さんが幼い発音をしているからといって、お母様も、「いいでちゅか〜?」のような赤ちゃん言葉で話しかける必要はありません。普通に、正しい発音を聞かせてあげてください。お母様の話される音をモデルとして、上手になっていきます。

もし、お子さんの言っていることが、周りの方に伝わらないようならば、お母様が通訳のようにお子さんのはっきりしないことばを「〜〜だよね」と周りの方に伝えてあげるとよいです。お子さんも安心して、たくさんおしゃべりしてくれると思います。

もし、年中以上になっても、「発音がはっきりしなくて伝わらない」ということがある場合は(サ行、ラ行ができていなくてもOK)、お近くの言語聴覚士にご相談ください。

 

3. 吃音のまめ知識(左利き矯正は吃音の原因?)

インターネットなどには、左利き、または、左利き矯正が吃音の原因という情報があります。しかし、左利き矯正説は、1940年代には否定されている原因説です。実際、左利きの吃音のある人、左利きの吃音がない人をそれぞれ46人ずつ集めて、左利き矯正をされた割合を調べると、吃音のある人は26%、吃音がない人は30%左利き矯正されていました。吃音が発症した母親は色々な情報に振り回されることが多いため、最新の情報を知り、育児に自信を持ってほしいと思います。

 

4. 参考図書

  • 岩立志津夫・小椋たみ子編: よくわかる言語発達 改訂新版. ミネルヴァ書房, 2017
  • 菊池良和: エビデンスに基づいた吃音支援入門. 学苑社, 2012

 

文責:原由紀(研究分担者, 北里大学)、菊池良和(研究分担者, 九州大学耳鼻咽喉科)

AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一